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「自分で言ってること、分かってんのか。そりゃたしかに、胴は確率の上じゃ有利だが、それはあくまで長く勝負を見た場合だけだ。もしも二倍より上の目に当てられたら、場合に依っちゃ、今までの勝ちを吐き出すどころか、莫大な借金を背負わせられることになるんだぜ」
「そりゃ、まあ、ね」
 極端な例だけど、このチップの山を数指定のゾロ目に賭けて、もし出た場合、百八十倍返しの訳で……ありえない程の負債だ。恐らく、一生、世界の賭場を荒らし回る仕事に従事させられることだろうね。もちろん、色んな意味で本意じゃないけどさ。
「でも、不公平じゃない?」
「あぁん?」
「だってここまで勝てたのって、胴の心理を僕が読むっていう、一方的なルールだった訳じゃない。最後の一回くらい逆転させないと」
「てめぇ、狙った目なんか出せねぇだろ。前提が成り立ってねぇぞ」
「だからさ、純粋な運の領域で競うっていうので、充分、今までと違うじゃない」
「このガキ……」
 苦手な珍味を口に放り込まれたかのように、クレインは渋面を作った。
「本当、虫も殺さない様な面してるくせに、変なところで頑固だな」
「褒め言葉として受け取っておくね」
 小さい頃は、『勇者の息子』を取り繕うのが巧かった気がするんだけど、いつからこんなに捻くれちゃったのかなぁ。
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「アレク……僕の名前は、アレク」
「アレク様。その御名前、心に刻ませて頂きます」
 あれ? 今、気付いたんだけど、これって武勇伝の一貫になっちゃうの? ある意味、悪名じゃない?
「ところでアレク様、夜も大分、更けて参りました。鳥達も、目を覚ます頃合でしょう。次を最後の勝負とさせて頂きたく思いますが、如何でしょうか」
「そっちがそれで良いなら」
 通常、賭け事の仁義として、勝っている方が終わりを申し出ることは出来ないものらしい。つまり手持ちの金が無くなるか、負けている方が降参するかの二つだ。当然、賭場の規模にも依るけど、お金が無限にある訳じゃない。ある程度を超えた場合、店を潰される可能性も鑑みて、引き際を設定するのも、妥当な判断と言えるだろう。
「だったら、ちょっと提案なんだけど」
「何で御座いましょうか」
「最後なんだったら、僕が賽を振っても良い?」
「アレク様が、で御座いますか?」
「うん、特別な勝負なんだから、特例ってことで。そしてディーラーさんが賭けられるのは、今まで僕が積み上げたチップの額までってことでどう?」
「おい、坊主」
 意外にも、この申し出に対し真っ先に声を掛けてきたのは、直接の関係は無いクレインだった。
 僕達が賭場に足を踏み入れてから、数刻が過ぎていた。
 今、僕の目の前には、チップが、ちょっとした壁とも思える程に積み上げられている。具体的な額については……高さや面積から計算すれば大体は出るだろうけど今は面倒だし、後で良いや。
「――」
 目の前に居る賽振りも、既にお姉さんから数えて四人目だ。段々と、熟達した人を連れて来ているのは、勝率の減少からも分かる。だけど十回も遣り取りを重ねれば、その思考は概ね読み取れる。理屈の上では、テラ銭の差分以上の勝率となれば、種銭を増やせる訳だけど、ここまで順調すぎると、ちょっと怖い面もある。
 それにしても、僕はたった一人なのに、相手は自由に選手を代えて良いって、随分と理不尽な話だよね。
「てめぇ……生粋のギャンブラーだったのか」
「勇者だったはずなんだけどね」
 ちなみにクレインは、最初の方は少し勝ってたけど、良い様に踊らされて、あっさり種銭を使い果たしていた。まあ、これからの路銀に手をつけない辺り、まだ賢明とも言えるのかも知れないけど。
「お客様……大した腕前で御座いますね」
 不意に、痩せぎすの体躯をした賽振りが、声を掛けてきた。
「名のある博徒と御見受け致しますが、お名前を御伺いしても宜しいでしょうか」
 実戦で博打をするのは初めてなんて、口にしたら発狂する人が出そうだからやめておこう。
「これで、締め切るわねぇ」
 流石は鉄面皮が売りのお仕事だけに、お姉さんは一切、表情を変えない。
 だけど、その最終目標は、分かりきっている。初心者の僕に博打の味を憶えさせて、お金をこの賭場に落とさせることだ。その為に一体、どうするか。定石としては最初にそこそこ勝たせて気分を良くさせ、その後に回収するだけど、僕の様な小賢しそうな人間には、それだけじゃ弱いと読むだろう。その上で、序盤の勝ちを浮き彫りにさせるにはどうすればいいか。答は幾つかあるだろうけど、一つの方法は、『最初の一回は負けて貰う』だ。それも、印象に残る方法で、だ。様子見で少額を張ってくるであろう大小、どちらも外せるゾロ目は、その条件にピタリと当て嵌まる。
「二ゾロの、六よぉ。坊やの一人勝ちねぇ」
「ありがと」
 幸いにして、早々に二百四十ゴールドもの勝利を収めた僕だけど、正直、的中するとは思っていなかった。唯、お姉さんに思考を読まれ、それを操作される様な事態に陥ることを避けたかった。
 言い換えるなら、『こいつが何をしでかすか分からない』という意識を、植え込んだと言っても良い。
「ほぉ、あの姉ちゃん、初めての相手にゃ、ゾロ目を出すのか」
「……」
 初心者の僕が言うのもなんだけど、クレインは致命的にギャンブルに向いてない気がするんだ。
「次、イクわよぉ」
 たったの一度、穴を当てられただけで眉根を動かす様な人では無いだろう。ここは、牽制が功を奏したと自惚れて良い。だけどそれが過信にならない様に自重しつつ、僕は次の目を紡ぎ出す為、頭脳を動かし始めた。
「それじゃ、入るわよ?」
 言ってお姉さんは、陶器製の器に三つの賽を放り入れ、カラカラカラと音を鳴らして、台の上に叩き置いた。今の動作で、狙った目が出せるとは思えないけれど、その道で食べている以上、それくらいはやってのけると仮定しよう。
 となると、この場合、ディーラー側は何を考えるかと言うと――。
「小に五ゴールド」
「大に七ゴールド」
「儂は小に十ゴールドと、ピンゾロに三ゴールドじゃわい」
 僕が思案している間にも、他のお客さんが次々と張りを決めていく。
「坊やは、最初は見かしらぁ?」
「ねぇ、お姉さん」
「うん?」
「ゾロ目にも、賭けられるんだよね?」
「ええ、ただ、三つの目が揃うゾロを言い当てたら三十倍、その数まで指定したら百八十倍よぉ」
「じゃあ、ゾロ目に十ゴールドで」
「本当にそれだけで良いのぉ? 大小はぁ?」
「構わないよ。ちょっと、勘に頼ってみたい気分だから」
 もちろん、勘だけでこんな分の悪いことを言い出したりはしない。ゾロ目が出る確率は三十六分の一に対して、戻しは三十倍だ。数指定した場合も、二百十六分の一に対して百八十倍だから、長く続ければ負けるだろう。それを分かった上で、何でそんなところに賭けたかと言うと――。


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