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 僕達が賭場に足を踏み入れてから、数刻が過ぎていた。
 今、僕の目の前には、チップが、ちょっとした壁とも思える程に積み上げられている。具体的な額については……高さや面積から計算すれば大体は出るだろうけど今は面倒だし、後で良いや。
「――」
 目の前に居る賽振りも、既にお姉さんから数えて四人目だ。段々と、熟達した人を連れて来ているのは、勝率の減少からも分かる。だけど十回も遣り取りを重ねれば、その思考は概ね読み取れる。理屈の上では、テラ銭の差分以上の勝率となれば、種銭を増やせる訳だけど、ここまで順調すぎると、ちょっと怖い面もある。
 それにしても、僕はたった一人なのに、相手は自由に選手を代えて良いって、随分と理不尽な話だよね。
「てめぇ……生粋のギャンブラーだったのか」
「勇者だったはずなんだけどね」
 ちなみにクレインは、最初の方は少し勝ってたけど、良い様に踊らされて、あっさり種銭を使い果たしていた。まあ、これからの路銀に手をつけない辺り、まだ賢明とも言えるのかも知れないけど。
「お客様……大した腕前で御座いますね」
 不意に、痩せぎすの体躯をした賽振りが、声を掛けてきた。
「名のある博徒と御見受け致しますが、お名前を御伺いしても宜しいでしょうか」
 実戦で博打をするのは初めてなんて、口にしたら発狂する人が出そうだからやめておこう。
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