まあ、渡辺喜美氏について私が辛口の評価をする最大の理由はあれですね。潔癖というか、正義感面しすぎというか、自分で自分のことを清廉と平気で言いそうなところとか。はっきり言うと、マスコミを利用してるつもりで、利用されてることに気付いてない感じが気に食いません。十年前の私なら騙されたかも分かりませんけど。
( ・ω・) そう考えると、俺もすっかり汚れちまったなぁ
「はぁ……はぁ……」
腕が軋む。胸の奥が痛む。意識が朦朧とする。
この二年、真面目に剣の修行もしてきたつもりだったけど、実戦で振るうとなると話は違う。すぐさま息は上がって、剣に振り回されてしまう。
うぅ……スライムくらい、魔法さえ使えればそんなに苦労しないのに。
「何度も言いますが、魔法はしばらく禁止ですわよ」
心の内を見透かされた様に的確な言葉を口にされて、驚きで身体が強張ってしまう。
「わたくしは棍を少々扱えますが、あくまでも護身程度ですわ。勇者様には近接戦闘の要となって頂かないと困りますもの」
言いながらアクアさんは、上空から舞い降りた大烏を、手にした杖で叩き落した。どう見ても男の僕より強いと思うんだけど、気のせいじゃないよね。
「ギャー!?」
一方、シスはシスで、僕とは違う苦労をしていた。
「ううう……鞭って、こんなに使いづらいもんだっけ」
中距離で扱え、動きを封じることも出来る鞭を武器として選択したまでは良かったんだけど、実際に使ったことは少ないらしい。さっきから、何度と無く狙いを外しては、引く加減を間違えて自分の身体を引っ叩いていた。
「慌てなくても、アリアハン近辺の魔物はそれ程に手強くはありませんわ。当面は、修行を兼ねての旅ということに致しましょう、勇者様」
「あー、えっと、アクアさん」
「どうしましたの?」
「その、『勇者様』っていうの、やめて貰って良いですか」
「勇者大明神の方がお好みですの?」
「……」
ハッ! またしても、思考が完全に停止しちゃったよ。
「そうじゃなくて、名前で良いです。仲間なんですから」
「アレク様、ですわね」
「何で、敬称から離れられないんですか。呼び捨てで良いですって。それが無理でも、さん付けくらいで」
正直なところ、むず痒い面があった。だって、そうでしょう。年下が相手でも様は無いと思うのに、アクアさんは年上だもんなぁ。
「分かりましたわ。ちょっとした夢だったのですけど、泣く泣く諦めますことにしますの」
そ、そこまで大袈裟な話なのかなぁ。
「ですけど、アレクさん、こちらからもお願いが御座いますわ。わたくしに対して、敬語はやめて下さいまし」
「え――?」
「シスさんと違って、わたくしに対しては距離を取っておられるようで、妬いてしまいますわ」
「や、妬くって……」
だ、ダメだ。この人には、全てに於いて勝てる気がしない。
「わ、分かった。アクアさん、これからも宜しく」
「ですの」
頭から湯気が出そうな気分だった。何でこの人はこういう性格なんだろう。底の見えない恐ろしさなんかを感じつつも、僕達の距離は少しだけ縮まった――よね?
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