シスの本名は、多分、システィ=トランスファーと言うんだと思われます。公式なんだか、何なんだか、今一つ分かりませんが。一部で、『死すティ』とか、死亡フラグ立ってんじゃんとか揶揄されつつも、今日も奴は元気です。
( ・ω・) 尚、由来がシス=トランス異性体であることは、微妙に知られていない
「えっと、それで治療するには、と」
記憶の片隅に埋もれた対処法を、掘り起こしてみる。
「満月草を煎じて飲ませれば良いんだっけ」
カザーブで、非常用の備えに買っておいた気がする。誰が持ってたっけ。
「っていうかさ」
一つの懸念が頭を掠めた。
「どう考えても、戦闘時に一々、満月草を取り出して、刻んで、煮出して、飲ませるなんて無理だよね?」
むしろ、気付いたのが今で良かったと思う。戦況が不利な時だったら、混乱しちゃう自信があるよ。
「たしか、刻んだものを飲ませるだけでも、それなりの効果があると記憶しておりますわ」
「動けない仲間の口に押し込むって、絵として随分凄いよね」
実際はそれどころじゃないんだろうけど、もうちょっと何とかならないかなぁ。
「そこで登場するのが、キアリクですわ」
「あ~」
たしか僧侶系魔法で、痺れを取り除くことが出来る専用の魔法だ。
「アクアさん、使えるの?」
「最近、憶えたばかりですの」
「……」
物凄く、嫌な予感がした。
「それって、つまり使ったことが無い、と」
「実はこの状況に、心がうずうずしている状態ですわ」
言い換えると人体実験ってことだよね。ま、まあ、いずれ訪れる戦闘時を想定した、予行演習って解釈にしておこうかな。
「ら、らんれも……りいらあ……ららう……」
足元でシスが、呻きに似た声をあげた。正直、何を言おうとしてるかさえ分からない。
「『何でも良いから早く』と仰られてるようですの」
そこまで分かってるなら、早く魔法を掛けてあげようよ。
『キアリク』
杖の先から放たれた淡い光が、シスの上腕部を包み込み、そこから肩を経て頭部、胸部、下腹部へと広がっていく。弛緩していた筋肉が回復しているのが見て取れ、呪文が成功したことを理解した。
「ふ、ふ~。し、死ぬかと思ったよ」
「何にしても、お帰り」
これに懲りて、少しは不用意な行動を慎んでくれる様になったら良いなぁ。
「今度から、得体の知れないお宝は、誰かに取らせて、安全なのを確認してから手にしないと危ないね」
ダメだ、物凄い勢いで悪化の一途を辿ってるよ。
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