2009
「アレク……僕の名前は、アレク」
「アレク様。その御名前、心に刻ませて頂きます」
あれ? 今、気付いたんだけど、これって武勇伝の一貫になっちゃうの? ある意味、悪名じゃない?
「ところでアレク様、夜も大分、更けて参りました。鳥達も、目を覚ます頃合でしょう。次を最後の勝負とさせて頂きたく思いますが、如何でしょうか」
「そっちがそれで良いなら」
通常、賭け事の仁義として、勝っている方が終わりを申し出ることは出来ないものらしい。つまり手持ちの金が無くなるか、負けている方が降参するかの二つだ。当然、賭場の規模にも依るけど、お金が無限にある訳じゃない。ある程度を超えた場合、店を潰される可能性も鑑みて、引き際を設定するのも、妥当な判断と言えるだろう。
「だったら、ちょっと提案なんだけど」
「何で御座いましょうか」
「最後なんだったら、僕が賽を振っても良い?」
「アレク様が、で御座いますか?」
「うん、特別な勝負なんだから、特例ってことで。そしてディーラーさんが賭けられるのは、今まで僕が積み上げたチップの額までってことでどう?」
「おい、坊主」
意外にも、この申し出に対し真っ先に声を掛けてきたのは、直接の関係は無いクレインだった。
「アレク様。その御名前、心に刻ませて頂きます」
あれ? 今、気付いたんだけど、これって武勇伝の一貫になっちゃうの? ある意味、悪名じゃない?
「ところでアレク様、夜も大分、更けて参りました。鳥達も、目を覚ます頃合でしょう。次を最後の勝負とさせて頂きたく思いますが、如何でしょうか」
「そっちがそれで良いなら」
通常、賭け事の仁義として、勝っている方が終わりを申し出ることは出来ないものらしい。つまり手持ちの金が無くなるか、負けている方が降参するかの二つだ。当然、賭場の規模にも依るけど、お金が無限にある訳じゃない。ある程度を超えた場合、店を潰される可能性も鑑みて、引き際を設定するのも、妥当な判断と言えるだろう。
「だったら、ちょっと提案なんだけど」
「何で御座いましょうか」
「最後なんだったら、僕が賽を振っても良い?」
「アレク様が、で御座いますか?」
「うん、特別な勝負なんだから、特例ってことで。そしてディーラーさんが賭けられるのは、今まで僕が積み上げたチップの額までってことでどう?」
「おい、坊主」
意外にも、この申し出に対し真っ先に声を掛けてきたのは、直接の関係は無いクレインだった。
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2009
僕達が賭場に足を踏み入れてから、数刻が過ぎていた。
今、僕の目の前には、チップが、ちょっとした壁とも思える程に積み上げられている。具体的な額については……高さや面積から計算すれば大体は出るだろうけど今は面倒だし、後で良いや。
「――」
目の前に居る賽振りも、既にお姉さんから数えて四人目だ。段々と、熟達した人を連れて来ているのは、勝率の減少からも分かる。だけど十回も遣り取りを重ねれば、その思考は概ね読み取れる。理屈の上では、テラ銭の差分以上の勝率となれば、種銭を増やせる訳だけど、ここまで順調すぎると、ちょっと怖い面もある。
それにしても、僕はたった一人なのに、相手は自由に選手を代えて良いって、随分と理不尽な話だよね。
「てめぇ……生粋のギャンブラーだったのか」
「勇者だったはずなんだけどね」
ちなみにクレインは、最初の方は少し勝ってたけど、良い様に踊らされて、あっさり種銭を使い果たしていた。まあ、これからの路銀に手をつけない辺り、まだ賢明とも言えるのかも知れないけど。
「お客様……大した腕前で御座いますね」
不意に、痩せぎすの体躯をした賽振りが、声を掛けてきた。
「名のある博徒と御見受け致しますが、お名前を御伺いしても宜しいでしょうか」
実戦で博打をするのは初めてなんて、口にしたら発狂する人が出そうだからやめておこう。
今、僕の目の前には、チップが、ちょっとした壁とも思える程に積み上げられている。具体的な額については……高さや面積から計算すれば大体は出るだろうけど今は面倒だし、後で良いや。
「――」
目の前に居る賽振りも、既にお姉さんから数えて四人目だ。段々と、熟達した人を連れて来ているのは、勝率の減少からも分かる。だけど十回も遣り取りを重ねれば、その思考は概ね読み取れる。理屈の上では、テラ銭の差分以上の勝率となれば、種銭を増やせる訳だけど、ここまで順調すぎると、ちょっと怖い面もある。
それにしても、僕はたった一人なのに、相手は自由に選手を代えて良いって、随分と理不尽な話だよね。
「てめぇ……生粋のギャンブラーだったのか」
「勇者だったはずなんだけどね」
ちなみにクレインは、最初の方は少し勝ってたけど、良い様に踊らされて、あっさり種銭を使い果たしていた。まあ、これからの路銀に手をつけない辺り、まだ賢明とも言えるのかも知れないけど。
「お客様……大した腕前で御座いますね」
不意に、痩せぎすの体躯をした賽振りが、声を掛けてきた。
「名のある博徒と御見受け致しますが、お名前を御伺いしても宜しいでしょうか」
実戦で博打をするのは初めてなんて、口にしたら発狂する人が出そうだからやめておこう。
2009
「これで、締め切るわねぇ」
流石は鉄面皮が売りのお仕事だけに、お姉さんは一切、表情を変えない。
だけど、その最終目標は、分かりきっている。初心者の僕に博打の味を憶えさせて、お金をこの賭場に落とさせることだ。その為に一体、どうするか。定石としては最初にそこそこ勝たせて気分を良くさせ、その後に回収するだけど、僕の様な小賢しそうな人間には、それだけじゃ弱いと読むだろう。その上で、序盤の勝ちを浮き彫りにさせるにはどうすればいいか。答は幾つかあるだろうけど、一つの方法は、『最初の一回は負けて貰う』だ。それも、印象に残る方法で、だ。様子見で少額を張ってくるであろう大小、どちらも外せるゾロ目は、その条件にピタリと当て嵌まる。
「二ゾロの、六よぉ。坊やの一人勝ちねぇ」
「ありがと」
幸いにして、早々に二百四十ゴールドもの勝利を収めた僕だけど、正直、的中するとは思っていなかった。唯、お姉さんに思考を読まれ、それを操作される様な事態に陥ることを避けたかった。
言い換えるなら、『こいつが何をしでかすか分からない』という意識を、植え込んだと言っても良い。
「ほぉ、あの姉ちゃん、初めての相手にゃ、ゾロ目を出すのか」
「……」
初心者の僕が言うのもなんだけど、クレインは致命的にギャンブルに向いてない気がするんだ。
「次、イクわよぉ」
たったの一度、穴を当てられただけで眉根を動かす様な人では無いだろう。ここは、牽制が功を奏したと自惚れて良い。だけどそれが過信にならない様に自重しつつ、僕は次の目を紡ぎ出す為、頭脳を動かし始めた。
流石は鉄面皮が売りのお仕事だけに、お姉さんは一切、表情を変えない。
だけど、その最終目標は、分かりきっている。初心者の僕に博打の味を憶えさせて、お金をこの賭場に落とさせることだ。その為に一体、どうするか。定石としては最初にそこそこ勝たせて気分を良くさせ、その後に回収するだけど、僕の様な小賢しそうな人間には、それだけじゃ弱いと読むだろう。その上で、序盤の勝ちを浮き彫りにさせるにはどうすればいいか。答は幾つかあるだろうけど、一つの方法は、『最初の一回は負けて貰う』だ。それも、印象に残る方法で、だ。様子見で少額を張ってくるであろう大小、どちらも外せるゾロ目は、その条件にピタリと当て嵌まる。
「二ゾロの、六よぉ。坊やの一人勝ちねぇ」
「ありがと」
幸いにして、早々に二百四十ゴールドもの勝利を収めた僕だけど、正直、的中するとは思っていなかった。唯、お姉さんに思考を読まれ、それを操作される様な事態に陥ることを避けたかった。
言い換えるなら、『こいつが何をしでかすか分からない』という意識を、植え込んだと言っても良い。
「ほぉ、あの姉ちゃん、初めての相手にゃ、ゾロ目を出すのか」
「……」
初心者の僕が言うのもなんだけど、クレインは致命的にギャンブルに向いてない気がするんだ。
「次、イクわよぉ」
たったの一度、穴を当てられただけで眉根を動かす様な人では無いだろう。ここは、牽制が功を奏したと自惚れて良い。だけどそれが過信にならない様に自重しつつ、僕は次の目を紡ぎ出す為、頭脳を動かし始めた。
2009
「それじゃ、入るわよ?」
言ってお姉さんは、陶器製の器に三つの賽を放り入れ、カラカラカラと音を鳴らして、台の上に叩き置いた。今の動作で、狙った目が出せるとは思えないけれど、その道で食べている以上、それくらいはやってのけると仮定しよう。
となると、この場合、ディーラー側は何を考えるかと言うと――。
「小に五ゴールド」
「大に七ゴールド」
「儂は小に十ゴールドと、ピンゾロに三ゴールドじゃわい」
僕が思案している間にも、他のお客さんが次々と張りを決めていく。
「坊やは、最初は見かしらぁ?」
「ねぇ、お姉さん」
「うん?」
「ゾロ目にも、賭けられるんだよね?」
「ええ、ただ、三つの目が揃うゾロを言い当てたら三十倍、その数まで指定したら百八十倍よぉ」
「じゃあ、ゾロ目に十ゴールドで」
「本当にそれだけで良いのぉ? 大小はぁ?」
「構わないよ。ちょっと、勘に頼ってみたい気分だから」
もちろん、勘だけでこんな分の悪いことを言い出したりはしない。ゾロ目が出る確率は三十六分の一に対して、戻しは三十倍だ。数指定した場合も、二百十六分の一に対して百八十倍だから、長く続ければ負けるだろう。それを分かった上で、何でそんなところに賭けたかと言うと――。
言ってお姉さんは、陶器製の器に三つの賽を放り入れ、カラカラカラと音を鳴らして、台の上に叩き置いた。今の動作で、狙った目が出せるとは思えないけれど、その道で食べている以上、それくらいはやってのけると仮定しよう。
となると、この場合、ディーラー側は何を考えるかと言うと――。
「小に五ゴールド」
「大に七ゴールド」
「儂は小に十ゴールドと、ピンゾロに三ゴールドじゃわい」
僕が思案している間にも、他のお客さんが次々と張りを決めていく。
「坊やは、最初は見かしらぁ?」
「ねぇ、お姉さん」
「うん?」
「ゾロ目にも、賭けられるんだよね?」
「ええ、ただ、三つの目が揃うゾロを言い当てたら三十倍、その数まで指定したら百八十倍よぉ」
「じゃあ、ゾロ目に十ゴールドで」
「本当にそれだけで良いのぉ? 大小はぁ?」
「構わないよ。ちょっと、勘に頼ってみたい気分だから」
もちろん、勘だけでこんな分の悪いことを言い出したりはしない。ゾロ目が出る確率は三十六分の一に対して、戻しは三十倍だ。数指定した場合も、二百十六分の一に対して百八十倍だから、長く続ければ負けるだろう。それを分かった上で、何でそんなところに賭けたかと言うと――。
2009
「そんな技術と胆力があるなら、色々な世界で成功しそうだけどね」
ま、多分、好きでやってるんだろうから、良いんだけどさ。
「で、と」
テーブルに置かれたプレートを見遣って、最低と最高の掛け金を確認しておく。
最低が三ゴールドで、最高が千ゴールドか。三ゴールドなら安宿に一泊するくらいの額だけど、千ゴールドと言えば、鍛冶にそれなりの剣を鍛えて貰える程にもなる。賽の目一つにそれだけのお金を注ぎ込めるのって、凄いのか、何なのか。
そうだな。とりあえず、三十ゴールド負けたら、潮ってことにしよう。僕の性格からして無いとは思うけど、熱くなって身包み剥がされたら、バカの一言だもんね。
「あぁら、坊や、こういうところは初めて?」
僕が座った席に居たディーラーは、金髪のお姉さんだった。露出の多いレオタードに網タイツ、それに兎の耳を模したヘアバンドと、典型的なバニー姿だ。
あ、僕、年上の女性には弱いけど、こういうのは範囲外だから、特に問題は無いよ。
「やり方は、ちゃんと知ってるのぉ?」
「基本的なところはね。細かいところは、お姉さんに教えて貰うよ」
「あら、随分と大胆なこと言うのね」
「ん?」
あれ、クレインが何か、意地の悪い笑みを見せてるけど、僕、何か変なこと言った?
ま、多分、好きでやってるんだろうから、良いんだけどさ。
「で、と」
テーブルに置かれたプレートを見遣って、最低と最高の掛け金を確認しておく。
最低が三ゴールドで、最高が千ゴールドか。三ゴールドなら安宿に一泊するくらいの額だけど、千ゴールドと言えば、鍛冶にそれなりの剣を鍛えて貰える程にもなる。賽の目一つにそれだけのお金を注ぎ込めるのって、凄いのか、何なのか。
そうだな。とりあえず、三十ゴールド負けたら、潮ってことにしよう。僕の性格からして無いとは思うけど、熱くなって身包み剥がされたら、バカの一言だもんね。
「あぁら、坊や、こういうところは初めて?」
僕が座った席に居たディーラーは、金髪のお姉さんだった。露出の多いレオタードに網タイツ、それに兎の耳を模したヘアバンドと、典型的なバニー姿だ。
あ、僕、年上の女性には弱いけど、こういうのは範囲外だから、特に問題は無いよ。
「やり方は、ちゃんと知ってるのぉ?」
「基本的なところはね。細かいところは、お姉さんに教えて貰うよ」
「あら、随分と大胆なこと言うのね」
「ん?」
あれ、クレインが何か、意地の悪い笑みを見せてるけど、僕、何か変なこと言った?