2009
「ルールは知ってんのか?」
「ううん、全然」
「そうか。まあ、すぐ憶えられる」
クレインの説明に依ると、この遊戯は六面体のサイコロを三つ用いるらしい。そしてその合計が、四から十を小として扱い、十一から十七ならば大になる。一番単純な決めでは、その大小を当てた場合、掛け金が二倍になるというものだ。ちなみに、一のゾロ目である三と、六のゾロ目である十八はどちらにも属さず、又、他のゾロ目が出ても掛け金は没収される。この部分がテラ銭に相当する。この二つのどちらかが出る確率は、六の三乗の内六回で、二百十六分の六、つまりは、三十六分の一で、三パーセントにも満たない。二割、三割を抜く容赦無いものも多いことを考えれば、随分と良心的なものと言えるだろう。あくまで、単純な確率だけの話なんだけど。
「合計値当てや、ゾロ目当てってのもあるんだが、とりあえずは無視してけ。分かってるみてぇだが、丁半博打と同じく、胴側に賽振りが居て、基本、好きな数を出せる。最終的には、その腹を読み合う争いになると思いな」
「了解」
好きな目を出せるなら、ゾロ目ばかりを出して大小を外しても良い気がする。だけど、そういう露骨なことをすれば客は逃げるし、ゾロ目を当てられれば損失も大きい。結局、適度に散らしして、それなりに勝たせつつ、その上で、トータルで見たら賭場が潤う収支に持ち込むという神業が要求される訳だ。
「ううん、全然」
「そうか。まあ、すぐ憶えられる」
クレインの説明に依ると、この遊戯は六面体のサイコロを三つ用いるらしい。そしてその合計が、四から十を小として扱い、十一から十七ならば大になる。一番単純な決めでは、その大小を当てた場合、掛け金が二倍になるというものだ。ちなみに、一のゾロ目である三と、六のゾロ目である十八はどちらにも属さず、又、他のゾロ目が出ても掛け金は没収される。この部分がテラ銭に相当する。この二つのどちらかが出る確率は、六の三乗の内六回で、二百十六分の六、つまりは、三十六分の一で、三パーセントにも満たない。二割、三割を抜く容赦無いものも多いことを考えれば、随分と良心的なものと言えるだろう。あくまで、単純な確率だけの話なんだけど。
「合計値当てや、ゾロ目当てってのもあるんだが、とりあえずは無視してけ。分かってるみてぇだが、丁半博打と同じく、胴側に賽振りが居て、基本、好きな数を出せる。最終的には、その腹を読み合う争いになると思いな」
「了解」
好きな目を出せるなら、ゾロ目ばかりを出して大小を外しても良い気がする。だけど、そういう露骨なことをすれば客は逃げるし、ゾロ目を当てられれば損失も大きい。結局、適度に散らしして、それなりに勝たせつつ、その上で、トータルで見たら賭場が潤う収支に持ち込むという神業が要求される訳だ。
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2009
「それじゃ、クレインの貴重な意見を参考にした上で、シンプルな方で」
「このガキ……顔に似合わず、随分、意固地だな」
たまに、自分でも天邪鬼だって思うことはあるよ。
「んじゃまあ、サイコロの類が妥当だな。カードや特殊な道具を使うもんは、最初の一山が越えづらいからな」
「その中で、一番、憶え易いのは?」
「丁半か、大小、或いはルーレットってとこだろう。どれもテラ銭的な抜きがあるが、大体、二分の一の確率で二倍になる賭け枠がある」
「成程ね」
テラ銭っていうのは、場代っていうか、賭場を開いてる胴元の取り分のことだ。儲け分から抜くこともあれば、確率的に全返しにならないこともあり、長く博打を続けていれば、絶対に損をすると言われる理由だ。
「たしか、どれも運任せに見えて、胴との腹の読み合いなんだよね」
やったことはないけど、人づてに聞いたことはあるんだ。
「てめぇ、本当に可愛くないな」
大丈夫。僕、男に可愛いって言われて喜ぶことはないからさ。
「それじゃ、大小で」
幾つかあった中でこれを選んだのに、別段、深い意味は無い。唯、余り馴染みがないものだったし、折角だから話の種になるかなって思ったくらいかな。
「このガキ……顔に似合わず、随分、意固地だな」
たまに、自分でも天邪鬼だって思うことはあるよ。
「んじゃまあ、サイコロの類が妥当だな。カードや特殊な道具を使うもんは、最初の一山が越えづらいからな」
「その中で、一番、憶え易いのは?」
「丁半か、大小、或いはルーレットってとこだろう。どれもテラ銭的な抜きがあるが、大体、二分の一の確率で二倍になる賭け枠がある」
「成程ね」
テラ銭っていうのは、場代っていうか、賭場を開いてる胴元の取り分のことだ。儲け分から抜くこともあれば、確率的に全返しにならないこともあり、長く博打を続けていれば、絶対に損をすると言われる理由だ。
「たしか、どれも運任せに見えて、胴との腹の読み合いなんだよね」
やったことはないけど、人づてに聞いたことはあるんだ。
「てめぇ、本当に可愛くないな」
大丈夫。僕、男に可愛いって言われて喜ぶことはないからさ。
「それじゃ、大小で」
幾つかあった中でこれを選んだのに、別段、深い意味は無い。唯、余り馴染みがないものだったし、折角だから話の種になるかなって思ったくらいかな。
2009
「それで、てめぇは一体、どれをやるんだ?」
「僕の参加って、決定事項なの?」
「賭場に冷やかしで入るたぁ、良い度胸じゃねぇか」
いやいやいや。僕は何も知らされずに連れてこられたんだよ? その理屈は無いよね?
「んー、じゃあ、ルールをすぐ理解出来る奴で」
ここから見る分には、何となく知ってる気がする遊戯も幾つかあるけど、細かい部分が認識と一致するとは限らない。だったらいっそ、本当の初心者でも出来るものにしようと思ったんだけど――。
「博打舐めてんのか、オルァ」
物凄く、理不尽に睨まれた気がする。
「な、何さ、その反応は」
僕が僕の小遣いの範囲で何をやろうと、僕の勝手じゃない。
「良いか、仕組みが単純な博打ってのはな、その分、心理的な要因がでけぇんだ。詰まるところ、胴に良い様に踊らされて終わるだけだ」
「それは小難しいゲームでも同じじゃないの?」
「てめぇみたいな小賢しいのは、その思考力を競技の方に消化させた方が、迷いが無くなるんだよ」
うーん、その理屈って正しいのかなぁ。ってか、博打をする人って、大体、他人には絶対に理解出来ない独自理論を何かしら持ってるよね。
「僕の参加って、決定事項なの?」
「賭場に冷やかしで入るたぁ、良い度胸じゃねぇか」
いやいやいや。僕は何も知らされずに連れてこられたんだよ? その理屈は無いよね?
「んー、じゃあ、ルールをすぐ理解出来る奴で」
ここから見る分には、何となく知ってる気がする遊戯も幾つかあるけど、細かい部分が認識と一致するとは限らない。だったらいっそ、本当の初心者でも出来るものにしようと思ったんだけど――。
「博打舐めてんのか、オルァ」
物凄く、理不尽に睨まれた気がする。
「な、何さ、その反応は」
僕が僕の小遣いの範囲で何をやろうと、僕の勝手じゃない。
「良いか、仕組みが単純な博打ってのはな、その分、心理的な要因がでけぇんだ。詰まるところ、胴に良い様に踊らされて終わるだけだ」
「それは小難しいゲームでも同じじゃないの?」
「てめぇみたいな小賢しいのは、その思考力を競技の方に消化させた方が、迷いが無くなるんだよ」
うーん、その理屈って正しいのかなぁ。ってか、博打をする人って、大体、他人には絶対に理解出来ない独自理論を何かしら持ってるよね。
2009
「はい、丁方無いか、丁方――」
「コール。チップ、全賭けで」
「ああ、今日の稼ぎが、全て消えてしまった。またかみさんに怒られる……」
クレインに誘われ連れてこられた先は、鉄火場、つまりは場末の賭博場だった。
「何でまた、こんなところに……」
とりあえず、一つだけ言えることはある。素浪人というか、悪く言えばみすぼらしい格好のクレインは、こういう場所が良く似合う。
「貧乏旗本で奥さんを泣かせてても、余り違和感無いよね」
「てめぇは一体、何を言ってやがる」
「人間、見た目が思った以上に、重要なのかなって話」
実際、クレインと街中で擦れ違ったとしたら、目も合わせないだろうなって思うし。
「ってか、こういうところ、良く来るの?」
たしかクレインの経歴って、孤児院、傭兵団、メロニーヤ様のところでの修行だったよね。まあ、傭兵達って、宵越しの銭は持たない印象だし、たしなみの一貫なのかな。
「多分、違うこと考えてるだろうから言っておくがな。俺に博打を仕込んだのはメロニーヤの爺ぃだからな」
「……」
あ、今、ほんのちょっとだけ、メロニーヤ様に対する敬意の念が揺らいだ気がする。
「コール。チップ、全賭けで」
「ああ、今日の稼ぎが、全て消えてしまった。またかみさんに怒られる……」
クレインに誘われ連れてこられた先は、鉄火場、つまりは場末の賭博場だった。
「何でまた、こんなところに……」
とりあえず、一つだけ言えることはある。素浪人というか、悪く言えばみすぼらしい格好のクレインは、こういう場所が良く似合う。
「貧乏旗本で奥さんを泣かせてても、余り違和感無いよね」
「てめぇは一体、何を言ってやがる」
「人間、見た目が思った以上に、重要なのかなって話」
実際、クレインと街中で擦れ違ったとしたら、目も合わせないだろうなって思うし。
「ってか、こういうところ、良く来るの?」
たしかクレインの経歴って、孤児院、傭兵団、メロニーヤ様のところでの修行だったよね。まあ、傭兵達って、宵越しの銭は持たない印象だし、たしなみの一貫なのかな。
「多分、違うこと考えてるだろうから言っておくがな。俺に博打を仕込んだのはメロニーヤの爺ぃだからな」
「……」
あ、今、ほんのちょっとだけ、メロニーヤ様に対する敬意の念が揺らいだ気がする。
2009
「ま、まー、何だ。大したことねーみたいだし、問題はない」
「……あ」
大体、思い出した。たしか御互い、馬鹿みたいに飲みあってたんだけど、見るからに限界が近かったクレインに対して、僕は僕で平然と杯を重ねてた訳で――。
「突然、クレインが近くにあった棒切れで僕の頭をガコン、と」
何ていうか、酔ってて力が入らなかったのかなとか、手元にあったのが理力の杖じゃなくて良かったとか、色々と思うことはあるけどさ。
「とりあえず、僕に言うことは無い?」
「……悪かったな」
うん、素直っていうのは、何処の国でも共通する、基本的な美徳だよね。
「それで、この場合、勝負ってどうなるの?」
まあ、どう贔屓目に見ても、クレインの反則負けは揺るがないところなんだけどさ。
「あぁ? 理由はどうあれ、てめぇは途中で場から離れたんだぞ? どう安く見積もっても、勝負無しが妥当なところだろうが」
「……」
うわ、何、この卑劣極まりない論理。物事の見方って、一つじゃないんだね。
「だけど引っぱたいた分の詫びについては別勘定だ」
「ん?」
「ついてきな。アッサラームが、どうやって発展したのか見せてやるぜ」
この時、ちょっとエロティカルなことを考えてただなんて、女の子二人には内緒だからね。
「……あ」
大体、思い出した。たしか御互い、馬鹿みたいに飲みあってたんだけど、見るからに限界が近かったクレインに対して、僕は僕で平然と杯を重ねてた訳で――。
「突然、クレインが近くにあった棒切れで僕の頭をガコン、と」
何ていうか、酔ってて力が入らなかったのかなとか、手元にあったのが理力の杖じゃなくて良かったとか、色々と思うことはあるけどさ。
「とりあえず、僕に言うことは無い?」
「……悪かったな」
うん、素直っていうのは、何処の国でも共通する、基本的な美徳だよね。
「それで、この場合、勝負ってどうなるの?」
まあ、どう贔屓目に見ても、クレインの反則負けは揺るがないところなんだけどさ。
「あぁ? 理由はどうあれ、てめぇは途中で場から離れたんだぞ? どう安く見積もっても、勝負無しが妥当なところだろうが」
「……」
うわ、何、この卑劣極まりない論理。物事の見方って、一つじゃないんだね。
「だけど引っぱたいた分の詫びについては別勘定だ」
「ん?」
「ついてきな。アッサラームが、どうやって発展したのか見せてやるぜ」
この時、ちょっとエロティカルなことを考えてただなんて、女の子二人には内緒だからね。