2009
ということはつまり、事実上、勝負の結果なんて関係無い、不戦を選択することも出来るってことだ。最低賭け金は三ゴールドだけど、僕が提示したのは、『今まで僕が積み上げたチップに相当する額まで』だから、一ゴールドでも問題無い訳で。
「余りに露骨なイカサマは、将来的な風評も考えればやりたくない。とはいえ、本当の運任せで、このチップが倍になるかゼロになるかなんて勝負も、経営者としてはしがたい。だとすれば、妥協点として、ここでの手打ちを選んだとしても、何も不自然じゃないよね」
「概ね、その通りで御座います」
ディーラーが、はっきりと認めるのもどうかと思うけど。
「当然、今までの勝ち分を、反故にする様な真似も致しません。それこそ、信用に関わる問題ですので」
「賢明な判断だと思うよ」
あれ? ちょっと僕、嫌な奴になってない?
「ですが今後、その腕は余所で発揮なされるよう、お願い致します」
わーい、そしてさりげなく、出入り禁止宣言食らってるよー。
「お連れ様も、御理解頂けますね」
「俺もかよ!?」
何だか、良く分からない内にとばっちり食らってるクレインだけど、ま、深く考えないでおこうっと。
「余りに露骨なイカサマは、将来的な風評も考えればやりたくない。とはいえ、本当の運任せで、このチップが倍になるかゼロになるかなんて勝負も、経営者としてはしがたい。だとすれば、妥協点として、ここでの手打ちを選んだとしても、何も不自然じゃないよね」
「概ね、その通りで御座います」
ディーラーが、はっきりと認めるのもどうかと思うけど。
「当然、今までの勝ち分を、反故にする様な真似も致しません。それこそ、信用に関わる問題ですので」
「賢明な判断だと思うよ」
あれ? ちょっと僕、嫌な奴になってない?
「ですが今後、その腕は余所で発揮なされるよう、お願い致します」
わーい、そしてさりげなく、出入り禁止宣言食らってるよー。
「お連れ様も、御理解頂けますね」
「俺もかよ!?」
何だか、良く分からない内にとばっちり食らってるクレインだけど、ま、深く考えないでおこうっと。
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2009
「蓋は、そっちで開けて良いよ。但し、袖を捲くった上に片手で、こう、指先でつまみ上げる感じでね」
一番手っ取り早いイカサマは、出目を全て取り替えてしまうことだ。だけどこの衆人環視の中、今の条件で遣りきるのは難しいだろう。
他に、対策として考えられるのは――。
「では、私は小に張りましょう」
「額は?」
「――」
その言葉を口にするに至り、ディーラーは、一瞬、言葉を詰まらせた。
「一ゴールド」
聴衆が、小さくどよめいた。だけど僕は眉根一つ動かさず受け入れ、彼が器を取り外すのを、じっと見詰めた。
「三、四、六で十三、大だね」
結果を受け、僕は差し出された一ゴールド分のチップを受け取った。少額とはいっても、最後の勝負も勝つ辺り、随分と乗ってたね。だけど次もこう巧くいくとは限らないから、程々にしないとね。
「おい、坊主……」
「うん、どしたの?」
何故だか、クレインは相変わらずの不満顔だ。
「こうなること、分かってやがったな」
「うーん。まあ、こうなることもあるかなとは思ってたよ。僕が賽を振ると、運に任せた勝負になるだけじゃなくて、他にも変わる部分が出るでしょ」
「あぁ?」
「賭ける額を、僕が指定しなくなるってこと」
一番手っ取り早いイカサマは、出目を全て取り替えてしまうことだ。だけどこの衆人環視の中、今の条件で遣りきるのは難しいだろう。
他に、対策として考えられるのは――。
「では、私は小に張りましょう」
「額は?」
「――」
その言葉を口にするに至り、ディーラーは、一瞬、言葉を詰まらせた。
「一ゴールド」
聴衆が、小さくどよめいた。だけど僕は眉根一つ動かさず受け入れ、彼が器を取り外すのを、じっと見詰めた。
「三、四、六で十三、大だね」
結果を受け、僕は差し出された一ゴールド分のチップを受け取った。少額とはいっても、最後の勝負も勝つ辺り、随分と乗ってたね。だけど次もこう巧くいくとは限らないから、程々にしないとね。
「おい、坊主……」
「うん、どしたの?」
何故だか、クレインは相変わらずの不満顔だ。
「こうなること、分かってやがったな」
「うーん。まあ、こうなることもあるかなとは思ってたよ。僕が賽を振ると、運に任せた勝負になるだけじゃなくて、他にも変わる部分が出るでしょ」
「あぁ?」
「賭ける額を、僕が指定しなくなるってこと」
2009
「分かりました、その申し出、御受け致しましょう」
一方、責任者と思しき男と一言二言会話をしていたディーラーが、台の前に戻ってきて、そう口にした。
「それじゃ、ちょっと練習させてね」
幾ら賽の目に任せると言っても、それを盗み見られたりする様じゃ、話にならない。道具に仕掛けが無いことも調べないといけないし、何度となく試してみる。
「うん、大丈夫かな」
サイコロに賽振り用の器、それに台も調べてみたけど、不自然なところはない。そもそも、意図的に誰かを負かす仕掛けが出来るなら、ここまで勝ちは積み上げられなかっただろう。勝ち逃げが仁義に反すると言っても、所詮、僕は客の一人だ。頃合を見て切り上げると言われたら、手の打ちようがない。
或いは、僕に莫大な負けを背負わせる為にここまで肥えさせたという可能性も考えられるけど、この申し出をしたのはこっちの方だ。余り、現実的な線とは言えないだろう。
「それじゃ、いくよ」
左手で三つの賽をつまみ、器に放り込んで台に叩き付ける。その上で、入念に滑らせることで、目隠しをしたまま、何度も賽を転がす。ここまでやれば、正直、僕自身、中で何が起こっているか、想像もつかない。そっと右手を離して、ディーラーを見遣った。
一方、責任者と思しき男と一言二言会話をしていたディーラーが、台の前に戻ってきて、そう口にした。
「それじゃ、ちょっと練習させてね」
幾ら賽の目に任せると言っても、それを盗み見られたりする様じゃ、話にならない。道具に仕掛けが無いことも調べないといけないし、何度となく試してみる。
「うん、大丈夫かな」
サイコロに賽振り用の器、それに台も調べてみたけど、不自然なところはない。そもそも、意図的に誰かを負かす仕掛けが出来るなら、ここまで勝ちは積み上げられなかっただろう。勝ち逃げが仁義に反すると言っても、所詮、僕は客の一人だ。頃合を見て切り上げると言われたら、手の打ちようがない。
或いは、僕に莫大な負けを背負わせる為にここまで肥えさせたという可能性も考えられるけど、この申し出をしたのはこっちの方だ。余り、現実的な線とは言えないだろう。
「それじゃ、いくよ」
左手で三つの賽をつまみ、器に放り込んで台に叩き付ける。その上で、入念に滑らせることで、目隠しをしたまま、何度も賽を転がす。ここまでやれば、正直、僕自身、中で何が起こっているか、想像もつかない。そっと右手を離して、ディーラーを見遣った。
2009
「自分で言ってること、分かってんのか。そりゃたしかに、胴は確率の上じゃ有利だが、それはあくまで長く勝負を見た場合だけだ。もしも二倍より上の目に当てられたら、場合に依っちゃ、今までの勝ちを吐き出すどころか、莫大な借金を背負わせられることになるんだぜ」
「そりゃ、まあ、ね」
極端な例だけど、このチップの山を数指定のゾロ目に賭けて、もし出た場合、百八十倍返しの訳で……ありえない程の負債だ。恐らく、一生、世界の賭場を荒らし回る仕事に従事させられることだろうね。もちろん、色んな意味で本意じゃないけどさ。
「でも、不公平じゃない?」
「あぁん?」
「だってここまで勝てたのって、胴の心理を僕が読むっていう、一方的なルールだった訳じゃない。最後の一回くらい逆転させないと」
「てめぇ、狙った目なんか出せねぇだろ。前提が成り立ってねぇぞ」
「だからさ、純粋な運の領域で競うっていうので、充分、今までと違うじゃない」
「このガキ……」
苦手な珍味を口に放り込まれたかのように、クレインは渋面を作った。
「本当、虫も殺さない様な面してるくせに、変なところで頑固だな」
「褒め言葉として受け取っておくね」
小さい頃は、『勇者の息子』を取り繕うのが巧かった気がするんだけど、いつからこんなに捻くれちゃったのかなぁ。
「そりゃ、まあ、ね」
極端な例だけど、このチップの山を数指定のゾロ目に賭けて、もし出た場合、百八十倍返しの訳で……ありえない程の負債だ。恐らく、一生、世界の賭場を荒らし回る仕事に従事させられることだろうね。もちろん、色んな意味で本意じゃないけどさ。
「でも、不公平じゃない?」
「あぁん?」
「だってここまで勝てたのって、胴の心理を僕が読むっていう、一方的なルールだった訳じゃない。最後の一回くらい逆転させないと」
「てめぇ、狙った目なんか出せねぇだろ。前提が成り立ってねぇぞ」
「だからさ、純粋な運の領域で競うっていうので、充分、今までと違うじゃない」
「このガキ……」
苦手な珍味を口に放り込まれたかのように、クレインは渋面を作った。
「本当、虫も殺さない様な面してるくせに、変なところで頑固だな」
「褒め言葉として受け取っておくね」
小さい頃は、『勇者の息子』を取り繕うのが巧かった気がするんだけど、いつからこんなに捻くれちゃったのかなぁ。
2009
「アレク……僕の名前は、アレク」
「アレク様。その御名前、心に刻ませて頂きます」
あれ? 今、気付いたんだけど、これって武勇伝の一貫になっちゃうの? ある意味、悪名じゃない?
「ところでアレク様、夜も大分、更けて参りました。鳥達も、目を覚ます頃合でしょう。次を最後の勝負とさせて頂きたく思いますが、如何でしょうか」
「そっちがそれで良いなら」
通常、賭け事の仁義として、勝っている方が終わりを申し出ることは出来ないものらしい。つまり手持ちの金が無くなるか、負けている方が降参するかの二つだ。当然、賭場の規模にも依るけど、お金が無限にある訳じゃない。ある程度を超えた場合、店を潰される可能性も鑑みて、引き際を設定するのも、妥当な判断と言えるだろう。
「だったら、ちょっと提案なんだけど」
「何で御座いましょうか」
「最後なんだったら、僕が賽を振っても良い?」
「アレク様が、で御座いますか?」
「うん、特別な勝負なんだから、特例ってことで。そしてディーラーさんが賭けられるのは、今まで僕が積み上げたチップの額までってことでどう?」
「おい、坊主」
意外にも、この申し出に対し真っ先に声を掛けてきたのは、直接の関係は無いクレインだった。
「アレク様。その御名前、心に刻ませて頂きます」
あれ? 今、気付いたんだけど、これって武勇伝の一貫になっちゃうの? ある意味、悪名じゃない?
「ところでアレク様、夜も大分、更けて参りました。鳥達も、目を覚ます頃合でしょう。次を最後の勝負とさせて頂きたく思いますが、如何でしょうか」
「そっちがそれで良いなら」
通常、賭け事の仁義として、勝っている方が終わりを申し出ることは出来ないものらしい。つまり手持ちの金が無くなるか、負けている方が降参するかの二つだ。当然、賭場の規模にも依るけど、お金が無限にある訳じゃない。ある程度を超えた場合、店を潰される可能性も鑑みて、引き際を設定するのも、妥当な判断と言えるだろう。
「だったら、ちょっと提案なんだけど」
「何で御座いましょうか」
「最後なんだったら、僕が賽を振っても良い?」
「アレク様が、で御座いますか?」
「うん、特別な勝負なんだから、特例ってことで。そしてディーラーさんが賭けられるのは、今まで僕が積み上げたチップの額までってことでどう?」
「おい、坊主」
意外にも、この申し出に対し真っ先に声を掛けてきたのは、直接の関係は無いクレインだった。