2010
何でも、今国会に於ける政府提出の法案の成立率が、戦後二番目に低い水準だったとか。普通、こういう時は延長して審議しますよねー、まあ、あくまで、『普通』なんですが。
( ・ω・) 常識を打ち破るという意味では、民主党は他の追随を許していないやも知れない
「私も、完全に把握している訳ではありませんが、何でも背後には各国家が複雑に絡み合った、複合組織があるとか」
「そんなでかいもんにスピルって人は近付いてるんですか?」
何だか、僕がどうこう出来る次元の、遙か上を行ってる気がしてならない。
「キメラの翼は、あくまでも小手調べです。スピル達は、ここで得たノウハウと人脈を基盤として、いずれは世に流通する大多数の商品の値を自在に操り、僅かずつ、しかしながら莫大な富を得ることでしょう」
うん、話は大筋で分かった。その上で敢えて言わせて貰うよ。
「それで、僕達にどうしろと?」
こう、何て言うか勇者って、町のお助け屋さんみたいな側面があるけどさ。ここまで来ると、国家レベルで介入しないと、どうにもならないと思うんだよ。
「勇者様のお力で何とかなりませんかね?」
「えー、勇者というのはあくまで人間なので、神様みたいな扱いをされても無茶振りってものなんです」
もう、頭の容量を超えちゃって、言葉遣いがあやふやだよ。
「じゃあ、せめて、スピルの所在と正体を明かして貰うというのは」
「……」
ん?
「何だか、聞き捨てならない言葉を聞いた気がするんですが……スピルっていうのは、特定の誰かのことじゃないんですか?」
こう、堂々と顔役として町に君臨してるもんだと思ってたんですが。
「いや、どちらかと言うとコードネームに近いですね。その本名も、顔も、性別すら、正確に知る者は限られているのです」
「それを明かせば、何とかなるんですか?」
「奴らは必ずしも一枚岩とは言えませんので、それを暴露することで内部分裂を促すことも不可能ではないかと」
2010
ふと思う。キリストにしても、仏陀にしても、マホメットにしても、千年単位で影響力を残す人って、大抵、宗教家ですよね。孔子くらいですか、何となく思い付くそれ以外の人といえば。でも、儒教も宗教と言えば宗教ですしねぇ。孫子の兵法とか、どうなんだろう。
一方、芸術家は、偉大な音楽家が跋扈したのが三百年位前でしたっけ? 西洋画家とかもルネサンス期に集中してるような。日本の大衆文化が花開いたのも、江戸時代の話でしょうか。
やっぱり、芸術家というか、『物的証拠』を残すタイプが千年以上は厳しいんですかねぇ。そういう意味で宗教関連は、『解釈』という必殺技に依って、マイナーチェンジ可能ですし。バチカンが、『ネオ・七つの大罪』とか言い出した時は頭がクラクラしたもんでさぁ。
( ・ω・) こういう脳問答を経て、黄龍ちゃんは熟成される
「求める人が居るから、値段も上がるって話ですか?」
「そうですね。逆にありふれて誰も欲しがらないものは、値段がつくことさえない訳です」
あー、そう言えばどっかで、そんな話を聞いたことがある気もする。
「そして巨大な宝石の様に、存在そのものが稀少であれば、更に高騰します」
「それが需要と供給の折り合い、ですか」
欲しがる人の数と、売ることが出来る量のバランスで値段が決まるのか。たしかに、薬草とか凄く有用で、たくさんの人が使ってるけど、そこいらの野草で調合できるから安値で取引されてるよね。
「ん?」
あれ、何かがすごーく引っ掛かってるんですけど。
「ねぇ、ひょっとしてだけどさ。それって、売る方が出し渋れば、勝手にドンドン値段が上がってくってこと?」
あ――。
「御明察の通りです。ですが現実的に小規模でこれをやろうとしても、他の商業グループが手を出して失敗に終わるでしょう。
しかし、仮にこれを全世界規模、つまりは供給元を抑えてしまえばどうなるか」
「もしかしなくても、最近のキメラの翼の高騰って……」
「残念ながら、ここ、ハン・バークが震源です」
ああ、まさかランシールで知った出来事が、こんな世界の反対側に端を発してたなんて。お金の流れって、僕が思ってるより遥かに奥深いのかも知れない。
「御存知の通り、キメラの翼というものは、その有用性の割に、値段も手頃で色々なことに使われております。ですが反面、その安定供給の仕組みがどうなっているかを知る者が非常に少ない。それが、スピル達に目をつけられた理由です」
たしかに、キメラの翼って簡単に言うけど、キメラがそもそも何なのか、良く知らないんだよね。
2010
私の持論として、良質の創作物というのは、よっぽどの天才でも無い限り、創作家が『生み出すもの』ではなく、『出会う』ものなのだというのがあります。音楽家にとっての楽曲でもいいですし、絵師にとっての絵画でも良いです。そりゃ、脳内から捻り出された以上、生み出したは生み出したんでしょうけど、何か感覚的には出会ったという感じが強いかなぁと。
あんま、キリスト教的な考えは理解してないのですが、『天からの授かりもの』と言った方が分かりやすいでしょうか。少なくても私は、そんな風に感じています。
( ・ω・) 俺への授かり物が朱雀ってのは、それはそれでどうなのよ
「そんな小さな商売を営む私達ですが、奴らのやろうとしていることを見逃す訳にはいかないのです!」
ドン、と、ゴールさんは円卓を叩いて怒りを露にした。
「えー、ちょっと話の全体像が見えてこないんで、順番に説明して貰っても良いですか?」
町の小さな個人商店から世界経済の危機まで持っていくのは、僕の乏しい想像力じゃ難しすぎる。
「おっと失礼しました。では基本的なところからいきましょう。
物の値段というのは、どの様に決まっているか御存知ですか?」
「は?」
右端から一気に左端に振り回されるかの様な心情風景を反映して、頓狂な声が漏れたりもするよ、そりゃ。
「原価があって、それに携わった人の取り分を加味して決まるんじゃないですか?」
人手と手間が掛かったり、高い技術が要求されれば、値段が釣り上がっていくのは自明の話だと思う。バーネットさんみたいに、自分で腕の値段を下げちゃう人も居る訳だけど。
「たしかに、それも一つ。ですがもう一つ、需要と供給が折り合う線というのも、大事な話です」
「えー、と」
何でクワットさんの時といい、僕はこう、商売の基本を教えられる立場に立たされるんだろうか。これが運命だとしても、何か認めたくない気分だよ。
「分かり易い例は、宝石でしょうか」
「宝石?」
はい、シス。光り物に対して、そう露骨に反応しないこと。
「この様に、宝石とは世の中の多くの人が興味を示すものです。ですが一部の魔力を帯びたものを除き、大多数の宝石は生活する上に於いて何の役にも立ちません。極端なことを言えば、その辺に転がっている石コロと何ら変わらないとも言えるでしょう」
2010
そういやすっかり忘れてましたが、国会会期延期がなくなったことで、労働者派遣法の改正も順延されたんでしたっけ。
『国民の生活が第一(笑)』って、嘲笑っていいところですか。結局、どの議員も皆、議席が一番やねんで。議員に対してはその思想と能力を的確に読み取って、国民が『脅迫』ないしは『交渉』する以外ないと、いい加減気付かないかなぁ。
( ・ω・) そんだけ民度の高い国が、一体、世界の何処にあるんだって気もしますけど
よ、良く分かった。この人、腕はあるのに商売を度外視しちゃう典型的なタイプだ。そりゃ、お金が無くなってこんな酷いボロ屋でやるしかなくなっちゃうよ。
考えように依っては、僕達にとっては都合が良いとも言えるんだけどね。
◇
「良く来てくれたね」
日没から数刻が経った約束の時間、僕達はジョージさんが指定した宿屋の一室に足を踏み入れた。
「何だか、ややこしいことになってるみたいですしね」
世の全ての揉め事を解決するだけの器量は無いけど、せめて目についたことくらいは首を突っ込んで努力しようっていうのが、今の僕の目標だ。
「こちらが、私達、反スピルグループを取り仕切っているゴール氏だ。
そしてゴールさん、こちらが勇者アレクさんとそのお仲間です」
ジョージさんが間に入って、互いを紹介してくれた。
「聞けば、この世界が窮する中、全ての無益な紛争を排除する為、世界を回っておられるとか。その高い志、このゴール、感服致しております」
え、えー。ここまで持ち上げられると、流石に居心地が悪くなるんですけど。
「とりあえず、お話を伺います」
室内に据えられた円卓は、五人が掛けても尚、余裕がある程の大きさを持っていた。
この、一見すると雑貨屋のおじさんにしか見えない小男のゴールさんだけど、これだけの経済都市で一翼を担っている以上、それなりの肩書きを持ってるんだろうね。
「失礼。私の商売を説明しておりませんでしたね。この近くで、小さな雑貨店を営んでおります」
「……」
あれ?
「えー、それは町内各地に、何十店舗とかいう規模で――」
「いえ、一店舗だけですが?」
何だか、話が一気に矮小化しそうな、そんな切ない予感がひしひしとしてきたんですが。
2010
国民新党の、亀井郵政・金融担当大臣がその大臣職を辞したそうです。その理由は、郵政改革法案成立の断念だとか。何て言うか、すげーなぁ。時系列的には、所信表明演説の前に大臣が辞めたってことになるんですが。かつてあったんですかね、こんなこと。火曜発足で、金曜辞職ですよ。
自民党の谷垣氏も言ってますが、鳩山総理が辞め、福島大臣が罷免され、亀井大臣が辞任って、三代表全部内閣から去ったって、もうどうにもなってませんね。つーか、発足早々、総理ともあろう御方が、与党代表同士としての約束を破ったんですよ。今後、何一つ、守る保証は無いってことでことじゃないですか。
( ・ω・) 信義という観点では、もう地べたを這いつくばってるってことさ
「お、こいつぁ、ジパング製だな?」
バーネットさんは、刀身に巻かれた白布をスルスルと巻き取ると、そんな言葉を口にした。
「分かりますか」
「職人舐めんなよ、と言いたいところだが、何のこたぁねぇ。俺は若い頃、ジパングで修行したことがあってな。分かって当然さな」
成程、姉さんが言ってた通り、ジパングって鍛冶職人のレベルが高くて、聖地みたいな存在なのか。
ジパングでは、この剣を作った職人が消息不明で世話になれなかったけど、これだけ離れた地でその流れを組む人に会うなんて、人生ってのは奇縁で出来てるんだねぇ。
「刀身が曇り一つねぇってのは流石と言いたいところだが、柄の部分がちょっと緩んでやがるな。下手な使い手が、変な振り回し方でもしやがったか」
うぐっ、そ、それってもしかしなくても僕のせいですか。
うん、いや、まー、兄さんがヤマタノオロチの首を叩き切った時かも知れないし、犯人探しはやめておこうよ。
「まあ、そっちはすぐにでも直せるが、問題は鞘の方だな。ちょいと時間が掛かるぞ」
「どのくらいです?」
「二日か三日ってところか。何しろ、刀身が規格に収まらねぇ大きさと形だ」
「それくらいなら別に」
正直、三ヶ月と言われたらどうしようとか、ちょっと思ってたりしてたんだよ。
「よぉし、となりゃあ、この剣を作った職人との魂の大勝負だ。
うふぅ、血が燃えてきやがったぜ」
「え、いや、その前に、お代についての話なんかは――」
「あぁん? んなもんは終わった後で良いだろうが。邪魔すんじゃねぇ、ここからは、職人にしか分からねぇ領域だ」