2009
シスの本名は、多分、システィ=トランスファーと言うんだと思われます。公式なんだか、何なんだか、今一つ分かりませんが。一部で、『死すティ』とか、死亡フラグ立ってんじゃんとか揶揄されつつも、今日も奴は元気です。
( ・ω・) 尚、由来がシス=トランス異性体であることは、微妙に知られていない
「えっと、それで治療するには、と」
記憶の片隅に埋もれた対処法を、掘り起こしてみる。
「満月草を煎じて飲ませれば良いんだっけ」
カザーブで、非常用の備えに買っておいた気がする。誰が持ってたっけ。
「っていうかさ」
一つの懸念が頭を掠めた。
「どう考えても、戦闘時に一々、満月草を取り出して、刻んで、煮出して、飲ませるなんて無理だよね?」
むしろ、気付いたのが今で良かったと思う。戦況が不利な時だったら、混乱しちゃう自信があるよ。
「たしか、刻んだものを飲ませるだけでも、それなりの効果があると記憶しておりますわ」
「動けない仲間の口に押し込むって、絵として随分凄いよね」
実際はそれどころじゃないんだろうけど、もうちょっと何とかならないかなぁ。
「そこで登場するのが、キアリクですわ」
「あ~」
たしか僧侶系魔法で、痺れを取り除くことが出来る専用の魔法だ。
「アクアさん、使えるの?」
「最近、憶えたばかりですの」
「……」
物凄く、嫌な予感がした。
「それって、つまり使ったことが無い、と」
「実はこの状況に、心がうずうずしている状態ですわ」
言い換えると人体実験ってことだよね。ま、まあ、いずれ訪れる戦闘時を想定した、予行演習って解釈にしておこうかな。
「ら、らんれも……りいらあ……ららう……」
足元でシスが、呻きに似た声をあげた。正直、何を言おうとしてるかさえ分からない。
「『何でも良いから早く』と仰られてるようですの」
そこまで分かってるなら、早く魔法を掛けてあげようよ。
『キアリク』
杖の先から放たれた淡い光が、シスの上腕部を包み込み、そこから肩を経て頭部、胸部、下腹部へと広がっていく。弛緩していた筋肉が回復しているのが見て取れ、呪文が成功したことを理解した。
「ふ、ふ~。し、死ぬかと思ったよ」
「何にしても、お帰り」
これに懲りて、少しは不用意な行動を慎んでくれる様になったら良いなぁ。
「今度から、得体の知れないお宝は、誰かに取らせて、安全なのを確認してから手にしないと危ないね」
ダメだ、物凄い勢いで悪化の一途を辿ってるよ。
2009
アクアという名前は、『水の様に掴み所がない』から来ています。本当に脊椎動物かよという、あの精神の軟体さ。きっと水分含有率は赤子顔負けの80%を越えていることでしょう。
( ・ω・) まあ、当然のことながら後付けなんですけどね
「あらよっと」
驚異的発掘技術で掘り起こしたその場所に、何か煌くものが埋まっていた。
ん? まさか、本当に宝石なの?
「ほほぅ、これは中々」
シスが取り出したそれは、大きさでいうと握り拳くらいだろうか。はっきりとは分からないけど、多分、紅く輝く宝石なんだと思う。本当に当たっちゃったよ……。
「ぐえっへっへ。これ、幾らくらいで売れるかなぁ」
うん、ここまで下品な笑いをあげられると、むしろ清々しい気がするよ。
「はへ?」
「どしたの?」
「いあ、なんらかひらはいへど、ふちがらんらん、うおああう……」
ちょ、ちょっと、ふら付いて、どうしちゃったのさ。
「はりゃ~……」
その言葉を最後に、シスは全身を痙攣させ、その場に倒れ込んでしまう。
えー、と。これって、どうしたら良いのかな。
「身体が、麻痺しておられますわね」
シスの二の腕にそっと触れたアクアさんが、そう口にした。
「麻痺?」
話には聞いたことがあるけど、これがそうなんだ。
「魔物の中には、キラービーの様に麻痺毒を持ち、攻撃と共に痺れさせてくるものも居ますの。これは、それと良く似た症状だと思われますわ」
「うん、それは聞いたことがある」
「ちなみに、仲間全員が痺れてしまいますと、そのまま魔物達に好き放題襲われ、ほぼ確実に全滅するという恐ろしい状態でもありますわ」
そ、そういう脅しは、結構、心にくるなぁ。僕達、三人しか居ない小さなパーティだしさ。
「高位の魔物ともなりますと、焼け付く息といい、こちらの全員を対象とした麻痺攻撃を繰り出してくるものも居ると聞きますの。幸いにと申しますか、わたくしはまだ遭ったことはありませんわ」
「……」
何か、凄く怖い話を聞いた気がする。
「それって、もしかしなくても、運が悪ければ一瞬で全員が戦えなくなるってこと?」
「ですの」
や、やだなぁ。一人旅だった父さんとか、どうやって対処してたんだろう。兄さんだったら、『身体が言うことを聞かなくても、気合で動かせ』とか無茶言いそうだけどさ。
2009
良くメインヒロインが一番人気の作品は少ないと言います。黄龍ちゃんの場合、メインヒロインって……武則天?
( ・ω・) うむ、この法則、当たってるやも知れぬな
「ですが、そうすると、一つの疑問が生まれますわ」
「って言うと?」
「もし本当に女王様がそう思われているのであれば、それを信じるだけの理由が無くてはなりませんわ」
「そっか」
だけどそれは多分、死体が上がったなんて直接的なものじゃないと思う。だとすれば、人の口に戸は立てられない。エルフの誰かが知るところとなり、お爺さんにも伝わっただろう。
きっと、女王様だけに分かる、暗号みたいなものがあったに違いない。
「推察だけで構築するのは、そろそろ厳しいかな」
ここまで考えてきたことは、あくまで推論というか、悪く言ってしまえば妄想だ。根拠がある訳じゃない。
「ん? シス、何してるの?」
そんな地面に這い蹲っちゃって。さっきの蛇ごっこの続き?
「いや、この墓、何か埋まってる気がしてさ」
「……」
いや、この暗がりで、何でそんなこと分かるの? 魔法とかを越えた、超常的な力でも持ってる訳?
「掘り返して良い?」
「あのね、それは多分、お墓なんだよ」
形式的なものかも知れないけど、君には畏れを抱く心とか無い訳?
「別に、問題ないのではありませんの?」
ア、アクアさんまで。神職者がそんなこと言ったら、纏まるものも纏まらないじゃない。
「じゃ、多数決ってことで」
言って、道具袋から何やら金属器を取り出して、その場を掘り始める。な、何があっても知らないからね。
「あれ?」
「今度は、どうしたの?」
「今、何か、カツーンって、硬い物がぶつかった様な?」
ほ、骨とかじゃないよね。やだよ、そんなの。
「あたしの経験だと、宝石系の感触だね」
「分かるの? その金属器越しの感触で?」
職人芸と言って差し支えないこの技は、そろそろ真っ当な道で使うことを考えても良い気がする。
2009
私は基本的にマスコミ不信のポジションで居ますが、その最大の要因は記者クラブ制度と押し紙制度です。何やねん、その情報の独占。何やねん、その徹底した下請け苛め。
( ・ω・) 少なくても、この二つの是正と公開が成されない限り、解消されることはないでしょう
「どなたか、ここで亡くなられましたの?」
「どなたかって……誰?」
そもそも、この墓碑が作られた時期って、扉の仕掛けが作られた前? 後? それで随分と意味合いが変わってくると思うんだけど。
「ここに入ってこれるのがエルフであるという事実と、駆け落ちしたと言われる二人がここという二点から鑑みるに、その二人である可能性が濃厚と言わざるを得ないわね」
な、何かシスが論理的っぽいこと言ってる。この洞窟、崩れてきたりしないよね?
「二人が、ここで死んだ?」
それってつまり、入水自殺――ってか、心中したってこと?
「あたし、死んだなんて言ってないよ」
「ん?」
シスの発言は、どんな時も難解だ。
「あたしが言ったのは、そのお墓が二人のかも知れないってだけ」
「いやいやいや」
結局、死んだから墓が作られる訳で、殆ど同じ意味――。
「あ」
一つのことに気付いた。
「そゆこと~。お墓ってのはあくまで、『その人が死んだと他人が思い込んだ時』に作られるものなの。死んだかどうかは、又、別の話ってこと」
ほ、本当にシスらしくないくらい、まともな構築をしてる。どうしちゃったのさ、今日は。
「昔、墓暴きを何回かやったことあってさ~。開けられた形跡が無いのに中身空っぽのことも少なくなかったんだよね~」
よ、良かった。こうでないと、やっぱりシスじゃないよね。
「それで、誰が死んだと思い込んだかってことなんだけど」
墓碑の対象が、駆け落ちした二人と仮定すると、やっぱり、エルフの誰かってことになるのかな。ノアニールの人は殆ど寝てるし、お爺さんはここに寄ったこと無いっていうから、消去法でそうなるよね。
「エルフ側の身内って言うと――」
あの、女王様だ。
「女王様は、二人が死んだと思っている?」
本当に死んでいるかはともかく、彼女にとってそれが信じ込むに値すれば、それは真実となる。
2009
昨日、-keighさんとメッセをやっていた時の会話。K『ドラクエ3にメダパニってあんの?』M『アクアはこんらんした。だがふだんとあまりかわらなかった』
( ・ω・) 常日頃から、半分メダパニ掛かってるとまで言われてしまったよ
「うわっ……」
恐る恐る潜った穴の向こう側には、風雅な光景が広がっていた。それは大自然が生み出した一つの奇跡、地底湖だった。仄かに光る壁面は、発色能力を持った苔か何かの為だろうか。月夜程度の明るさが幻想的にその場を浮かび上がらせていて、心の奥がジンとした。
「ん~。ここって、位置的に考えて、エルフの隠れ里の下くらいにあるんだよね?」
「うん?」
そりゃ、地底湖なんだから、上下関係は大体の場合そうなるよね。地理的には……どうなんだろう。おおまかな地図は書き記してきたけど、地上との相関性は今一つ分からない。
「上にあったら、穴掘って水浸しに出来たんだけどな~」
その水計、一体、誰が得するのさ。
「って言うか」
この仕掛けは、一体、誰が作ったんだろう。こんな大掛かりなもの、一人や二人でどうにかなるとも思えないし、湖側からしか開けられないとすると、鍵となるのはこの穴の訳で。だけどこんなの、シスみたいな軟体動物ならともかく、普通に考えれば小さな子供か、メチャクチャ細身の人しか――。
「……細身?」
自分で考えながら、一つの単語に引っ掛かりを感じた。
「もしかして、ここって、人間は無理でもエルフなら通れるんじゃない?」
「ですの?」
「何か、あたし、人間扱いされてなくない?」
頭が通れば全身通るなんて猫みたいな真似する人は、むしろ人間扱いされない方が褒めてると思うんだ。
「ということは、この絡繰は、エルフのどなたがお作りになったと?」
「そう考えるべきなんじゃないかなぁ」
何としても、人間をここにやりたくなかった。だけど、完全に封鎖してしまうのは忍びない。だから、自分達だけが通れる穴を掘り、内側からしか作動しない扉を構築した、と。
「ここまでする理由は、分からないけどね」
この地底湖に、どんな秘密が隠されてるって言うんだろうか。
「ん? 何かあるよ」
シスが指し示した場所には、握り拳ほども無い小さな石が、幾つも積み上げられていた。これってもしかして……墓碑?