2009
あ、ありのままに起こったことを話すぜ。歯の健康と頭脳活性を目論んで、ガムを噛み始めたら、銀歯がポロリと取れた。な、何を言ってるかわからねーと思うが、俺も何をされたか分からなかった。虫歯になる薬だの、コンビニより多い歯科病院なんてチャチなもんじゃねー、もっと恐ろしいもんの片鱗を味わったぜ。
( ・ω・) まあ、四、五年ひっついてたんだから、こんなもんって感じもしますけどね
「ええ。何とか配置も完了しましたので、急な天候の崩れや魔物の襲撃が無い限り、大丈夫でしょう」
言って、船長は空いた椅子に腰を掛けた。
さて、と。色々と話したいことはあるけど、先ずは――。
「オーブって、何なんですか?」
ここから始めないと、どうにもならない。
「ふーむ。私も、件の友人から少し聞いただけなのですが、何でも勇者アレル一行は、そのオーブという珠玉を見つける為、世界を回って居たそうです」
「兄さんが?」
「そのことが魔王バラモスを倒すことにつながるという話でした」
どういうことなんだろう。この、ぱっと見は只の大きな宝石にしか見えない宝珠と、打倒バラモスに何の繋がりがあるんだろうか。
「それは、どういった因果関係で?」
「さぁ、そこまではちょっと」
「じゃあ、オーブっていうのは、これ一つだけなんですか? それとも、幾つかあるんですか? だとしたら何個――」
「それも、分かりかねます」
「……」
微妙に、役に立つんだか立たないんだか、良く分からない情報だなぁ。
「だけど、オーブか」
兄さん達が、何の目的でこの玉を求めていたかは分からない。だけど、これを追い続けていれば、接点が見出せるかも知れない。それが分かっただけでも、価値があったかな。
「他に、何か聞きたいことは?」
えーっと、そうだなぁ。
「船長は、かつて世界を巡っていたんですよね?」
「あの頃の私は、本当に輝いていました。この船旅は、全盛期の私を取り戻し、乗り越える為のものなのです」
いえいえ。そんな船長の自己陶酔は、この際どうでも良いですから。
2009
アレク君のスペックについてちょこっと考えてみた。基本能力は、魔法使い七割、勇者三割くらい。小賢しいくらいに頭は回るけど、度胸については何か流動的。剣は御存知の通り、あまり得意ではない。攻撃魔法の方が得意だけど、一応、勇者だから、基本的な回復魔法も使えるよ、っと。
( ・ω・) あれ、これってつまり、劣化賢者……?
「野郎共、敵は大王イカだ! 構うこたぁねぇ。十本足を八つ裂きにして、晩飯のおかずにしてやれ!」
「ヒャッホォォ。調味液に漬けて、ウマウマと内臓まで味わってくれるわ」
「日干しにすると、酒のツマミに最高なんだぜ」
前略、兄さん。勇者なのに、何故だか戦闘での出番がありません。
「ブヒョー。このヌメりつく触手の感触、最高だぜー」
そして、海の男には変人が多いと聞きますけど、どうやら真実だったみたいです。
「って言うか、大王イカって食べられるの? エースのスリーカード」
「アリアハンじゃ、あんま聞かないけどね。二と七のツーペア」
「地方に依っては、海の男の貴重な嗜好品と聞いたことがありますの。ジャックとクイーンのフルハウスですの」
「だー、また負けたー」
結論。場末の鉄火場くらいでなら通用する僕の博徒としての才能も、絶対的な強運の前では何の役にも立たないみたい。
「ふー。軟体生物のくせに、手こずらせてくれやがったぜー」
「だが、この触感だけはやめられねぇ。戦闘を、他人に譲るなんて出来るかってんだ」
「うみゃー。うみゃーよ、このゲソ。たまらねぇ」
いや、こんなこと言ってるけど、皆、結構、気の良い人達なんだよ? 戦闘中はちょっと人格おかしくなるけど。
「やぁ、坊や達。お騒がせしてしまったけど、被害は無かったかい?」
何て言うか、勇者のプライドという意味でしたら、もうズタズタです。
「それはともかくとして、船長。今日は時間ありますか?」
出航して数日、幸運なことに天気は良かったから航海は順風だった。と言っても、ブランクが長かったり、初対面の人が多い関係でアントニオ船長は忙殺されて、これまでゆっくり話す暇なんて取れなかったんだ。
2009
聞くところに依ると、政府は来年度予算で、赤字国債を発行する方向で調整しているとのことです。えー、無駄撤廃で、財源は十ウン兆も捻り出せるんじゃないんですかー。一体、どんな超論理を用意してるのか、今から楽しみというものです。
( ・ω・) いや、予算法案論議前に、鳩ちゃんが退陣するんじゃないかって専らの噂だけどね
三日後――ポルトガ王国第三埠頭にて。
「それじゃ、クワットさん、行ってきます」
「ええ、良き航海を。そして願わくば、良き戦果を」
ここ数日で、この、期待に満ちた顔を軽く受け流せるくらいにはなっていた。うん、これが大人の階段って奴だよね。
「例の件、宜しくお願いします」
「分かっています。アレル殿、並びにその仲間の消息を知り得ることが出来たのなら、お伝えしますよ」
当然のことながら、大商人にであるクワットさんの情報網は、一介の旅人である僕達を遥かに上回る。色々と考えたけれど、今、優先すべきことの一つは、兄さん達の消息だ。ここまで来たら、とことんまで甘えてしまおう。
「何から何まで、お世話になります」
「ふむ。商人に対する礼は、言葉を用いなくて結構。常に利でお返し頂きたいね」
「ハハ……」
何だか、ここまで本音で喋られると、一回りして好感が持てるから不思議だ。
「あ、そうだ」
準備やらが立て込んでいたせいで、一つ、聞き忘れていたことがあった。
「この宝珠、何だか分かりますか?」
兄さんから受け継いだ血濡れの宝珠――若干、見せるのを躊躇う気持ちがあったのは事実だけど、ここまで来たら、腹を括るしかない。
「ほぉ、これは食指が動かされるものですな。見たところ、極上の宝石を遥かに上回る価値があるようです。どうです、一億ゴールドで譲ってみませんか?」
「……」
やっぱり、見せたの間違いだったかなぁ……。
「冗談ですよ」
いやいや。幾ら僕が子供でも、本気と冗談の目くらい見分けつきますから。
「お、おい、それ――」
あれ? アントニオ船長、そんなに慌ててどうしたの?
「もしかして、オーブって奴じゃないのか?」
「オーブ?」
船長の言葉に、小さく反応する僕の心臓。この遣り取りが、これからの僕達に大きな影響を与えるだなんて、まだ、この時は気付いてなかったんだ。
2009
この一般人、社会の中に溶け込むのであれば非常に便利であるが、創作の世界ではどうであろう。空気や背景と呼ばれる存在になることは、容易に想像が出来るのではなかろうか。
彼女が、中途半端な一般人っぷりが災いし、主人公の悪友という立ち位置でありながらフェードアウトしつつある悲劇の人、椎名莉以氏である。今後、彼女が目立つポジションに立つ予定は無さそうである。
尚、口の端が歪んでいるのは、一般人であるがゆえであろう。
「君達は、この船のオーナーだ」
その件に関しましては、腹を括ったので、もう繰り返さなくても良いです。
「しかし、航海中は、あくまでも客人に過ぎない」
「……」
ん?
「船頭多くして、船、山に登る、という言葉を聞いたことがあるだろう? 海に於いて命令系統が乱れるということは、即、死に繋がる訳だ。決定を伴う行動を取る時は、必ず、船長である私を通すこと。言うまでも無いことかもしれなかったけれど、ここは大事なところなのでね」
「いえ、そんなことはないです」
割と奔放なパーティで行動してきたせいか、そういう意識が低かった。三人くらいならいざ知らず、この船には十人単位の人が乗り込む。いざって時に命令が二つ出たら、どっちに従ったら良いか分からなくて混乱するよね。
「ってことだから、シス。つまみ食いなんかしても、僕達に揉み消す権限は無い訳だからね。大人しくしてるんだよ」
「何であたしにだけ言うかな~」
いや、だってシス、職業が職業じゃない。
「とまあ、堅苦しくなってしまったが、あくまでこれは、命令系統の上下関係を明確にしたに過ぎない。普段は出来る限り、貴賓として扱うから心配しないでくれたまえ」
「あ、はい」
基本、路銀は節約して慎ましい旅をしてるから、そんなには必要ないですけどね。
「とは言え、海に出る以上、食料の問題は常に切迫していると思って貰いたい。つまみ食いなどをした日には、船員達の反感を買うのは間違いないと言えるだろう」
「だから、あたしだけ見て言わないでってば」
ハハハと、皆で笑い合う。その間、シスはずっとふくれっ面だった訳だけど、ま、いつものことだよね。
2009
野田財務副大臣がNHKの番組で、『補正予算の執行停止に伴い、手続き上、地方が自主返納をして貰うかも知れない』という主旨の発言をしました。え、何、この手前勝手な論理。国の方針に従って金返せって、何処が自主返納なのさ。『会社の都合で自主退職してくれ』っていうのにも似た、凄い理屈を聞いた気分です。
( ・ω・) これは知事会や市長会の反発も必至のはず。さぁて、最初に誰が噛み付くかな
「しびれくらげがパイレーツ~♪ 陸に上がって干からびる~♪」
ところで、船首で奇妙な歌を口ずさんでる僧侶さんはどう処理すれば良いんだろう。
「アクアさん、何ですか、それ」
「ロマリアでは、出航前にこれを歌っておくと、無事に帰ってこれると言い伝えられてますの」
「へー……」
思いっきり、生返事をしてしまった。いや、他国の風習に口を出すのはアレなんだけど、かと言って特に感性に訴えかけるものがあった訳でもなく――この反応、間違ってないよね?
「そういえば、船乗りと言えば、儀式があるらしいんですの」
「儀式?」
「あー、あれでしょ。新入りは、舳先から海へ飛び込むって奴。気絶するまで繰り返すんだっけ」
シスが補足する形で、儀式とやらの実態が明らかになる。
ってちょっと待ったぁ!
一体、誰がそんなことやるのさ?
そもそもそれ、海賊の流儀じゃないの?
はっきり言って、僕は無理だからね。高いとこが大丈夫なシスがやってよね。
「ハハハ、坊や、心配することはないさ」
と、ここでアントニオさんが割って入ってきた。
「向こうの大陸で活躍してるとも言われてる海賊団じゃあるまいし、今時、そんなこたぁ、こっちの船乗りはやらないさ。そもそも、君達一行は、この船のオーナー扱いで乗る訳だからね。堅苦しく考える必要はない」
「そ、そうですよね」
ほっとした。今、僕は心の底から安堵感を得たよー。
「と同時に、君達の立ち位置も、認識してもらう必要がある」
「はぁ?」
笑みを浮かべていたアントニオさんの顔が、いきなり真面目なものに変わったので、こちらも少し強張ってしまう。